散歩中の道端で、私は奇妙な家を見つけた。目を疑うほどの不可解な形状、まるで規則性を無視したかのような窓の配置、そして静謐でありながらもどこか緊張感を感じさせる佇まい。
興味津々に家に近づくと、古ぼけた表札に「影の家」と彫られているのが見えた。その瞬間、私の足元に冷たい風が吹き抜け、首筋に戦慄が走った。
無意識のうちに手がドアノブに伸び、ドアがきしむ音を立てて開いた。家の中は予想外にもモダンなインテリアが並び、美しくもどこか不気味な雰囲気が漂っていた。
家を探索していくと、奇妙な現象が次々と起こり始めた。自分が通り過ぎたはずの廊下を再度歩くと、それまで無かったドアが現れ、開けてみると見知らぬ部屋が広がっていた。壁の絵画の目がこちらを追いかけ、窓から見える風景が次々と変わる。そして何より、家の中に響き渡る子どもの笑い声。しかし、その源をたどることはできなかった。
恐怖が頂点に達したとき、私は最上階の小さな部屋に辿り着いた。部屋の中央には、古びた木製の椅子が一つ、静かに存在していた。私は椅子に腰掛け、周りを見渡すと、壁一面に鏡がはめ込まれているのが見えた。そして鏡に映る自分の影が、一人でに動き始める。
影は鏡から出てきて、私を囲むように部屋中を動き回った。そして、その影から子どもの笑い声が聞こえてきた。影が私に向かって手を伸ばし、その瞬間、私は床に崩れ落ちた。
目が覚めると、私は家の前の道端に寝ていた。振り返ると、奇妙な家は消え、代わりに普通の住宅が立っていた。しかし、その家の窓に映る自分の影が、微笑みながら手を振っているのを見た。
私はそれから何度もその街を訪れたが、二度と「影の家」を見つけることはできなかった。しかし、今でも自分の影が動くたび、あの子どもの笑い声が耳に響くのを感じる。それは恐怖でありながらも、奇妙な安堵感をもたらしてくれた。
そして私は理解した。あの家は「影」の存在、我々が普段見過ごしてしまう生活の一部を、肉体的な形で表現していたのだ。私たちは自分自身の影と共に生きている、それがこの世界の真実なのだと。
