黒いテレビという箱の中で、母校の教師が、自分に関するインタビューを受けている様子が映し出された。
「学生の頃から才能を感じる素晴らしい子でした!」と、
心にもないことを言っている。
Qは大きな大きな研究室で、研究室からはみだしそうなため息をついた。
そして、ため息の最後に「今日はずっと青色。」と呟いた。
Qは世間から”天才美少女”と呼ばれている。
Qは25歳であり、もう少女ではない。
しかし見た目が幼く可愛すぎることから、
マスコミはこぞって美”少女”と書きたがるのだ。
Qは25歳にして、帝王大学の医学部先端医療センター所長を務めている。
彼女が22歳で開発したアンチエイジングナノロボット(通称:AAN)は、現在すでに世界中の成人に埋め込まれている。
このナノロボットは、細胞内の劣化したミトコンドリアに代わり、エネルギーを産生する。
その結果、細胞は通常の10倍長く活動することができるのだ。
つまりQのおかげで、人類は見た目も中身も10倍長生きできるようになった。
Qは「とにもかくにも、老けたくない!」という一心で、AANを開発した。
そのため、AANは自分のためにこっそり隠しておくつもりだった。
自分だけが、いつまでも若々しくいたかったからだ。
しかし学生の頃、両親の研究室で研究していたので、開発したものを隠しておくことは難しかった。
世間にAANが広まったとき、Qは今日と同じ青色だった。
Qは今、このAANに「心の健康維持・促進機能」をつけようと研究をしている。
それももちろん、自分のために。
グラデーションを失くしたあの日から。
Qが黒く染まりつつあるあの日から。
Qは自分が嫌いだったが、それは白だった。
しかし、周囲への感情は違う。
変わり者だと馬鹿にしてきたクラスメイト、
研究のために休むことを皮肉ってきた教師たち、
有名になったら手のひらを返してきたそれら、
すべて濁った青に見えた。
そんな中、Qには癒しがあった。
それは、高校生で自分のためにつくった猫型ロボット「moko」だ。
人気アニメのドラえもんにあこがれて作ったものだった。
四次元ポケットはなかったが、Qの大好きなプラネタリウムを見せてくれるロボットだった。
しかも、Qが理想とする色の星空を見せてくれた。
澄み切った地球を映したような青、
桜のように可憐で穏やかな桃、
爽やかな風のような気持ちのいい緑、
お葬式の悲しい気持ちを反映したような紫、
月からこぼれ落ちたような優しい気持ちになれる黄色。
その美しい色の空に、限りなく一面に、部屋いっぱいに広がる星空。
これらをグラデーションにした空は、
どんなに嫌なことがあっても、白をグラデーションにしてくれた。
それは、ある日突然だった。
mokoが見せるグラデーションが、いつもと違って見えた。
今までにない黒いもやがかかって見えたのだ。
当初はロボットの故障かと思ったが、何度点検しても異常はなかった。
自分の視力が落ちたのかと眼科にいったが、どこも異常はないといわれた。
「ということは、自分の心の問題なのではないか。」
「見ている私の心に、何らかの変化があったのか。」
どんどんグラデーションが黒く見えてくる。
「早くグラデーションが見たい」
Qは研究室でひとりつぶやく。
カフェオレを1口飲み、心を落ち着かせる。
そして気持ちを、青から緑へ切り替えた。
つづく
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