Qは今日、新AAN(アンチアイジングナノロボット)の完成発表を行う。
Pももちろん一緒に会場へとやってきた。
久しぶりに外に出たので、日差しが眩しく感じる。
「今日はブルーかと思ったけど…意外とピンク」
会場では、親友も待っていた。
「やっほ〜!思ったより元気そうね!」
親友はいつも明るい。
Qは「うん、Pのおかげ」
と答えた。
親友は目を丸くし、その後微笑む。
「Q…やっと解放されたのね」
とポツリとつぶやいた。
Pも目をまん丸にしていた。
Qは、少し戸惑いつつも、自分のことを客観的に評価してくれる彼らに、とても救われた気持ちになる。
まるで、穏やかな波が永遠に揺蕩うような
それは、森の木々の葉同士が触れ合うような、
優しい空気を感じる。
Qの会見は、これで10回目ぐらいになる(Q自身、数を覚えていない)。
ちなみに「インスタント会見」という異名がつくほど、Qの会見は早いことで知られている。
要するに3分で終わる。
しかし今日は違った。
Qは新AANに込めた思い、自身の考え、このロボットがどのように開発され、どんな人に使ってもらいたいのか、
丁寧に30分かけて説明した。
記者もびっくりしたようで、ソワソワしながら聞き入っている。
「…以上から、この新AANは心の維持・健康を図ることができます。」
「しかし、心というのは科学で表現できない複雑な部分を抱えています。」
「AANが測れるのは、簡単に申し上げますと、人類共通で感じられる要因に基づく幸福感や嫌悪感、悲壮感などです。」
「そのため、個々の環境要因に左右される感情は、AANでうまくコントロールできるまでに5年は必要となります。」
「AANに内蔵されている、PというAIが分析するために要する時間です。」
「今後は、こちらの解析をよりスピーディに行うために改善を重ねる所存です。」
「何かご質問のある方は?」
会場は静まり返る。
1人の記者が手をあげる。
「〇〇新聞、政治部の田中と申します。本題と少しズレるのですが、1点聞いてもよろしいでしょうか?」
Qは黙って頷く。
「ありがとうございます。AIの名前がPというのは、由来はあるのでしょうか?」
「なかなか珍しいお名前だなと思ったもので…」
Qはふっと笑って答える。
美しい笑顔に、会場はどよめく。
Qは人前で笑うことは滅多にない。
機械音と共に、急に眩しい光があちこちで瞬く。
「ええ、ありますが企業秘密です。
「ヒントだけ申し上げると、私の心に変化をもたらすとても貴重な存在が由来となっています。」
会場の隅で、照れて隠れているPをよそに、親友は笑いを堪えていた。
〜fin〜
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