〜目次〜
死を迎える人にとっての、理解者でありたい
みなさまこんにちは!
本日はちょっと重いテーマのお話をしようと思います。
それは生きとし生けるもの全てに、平等に、そして必ず訪れる「死」についてです。
突然ですが、あなたがもし家族や知人から
「死ぬのが怖い。どうすればいいの?」と聞かれたら何と答えますか。
あるいは死を目前にした人に対して、どんなことをすればいいと思いますか。
私は看護師として、ある日突然に「ガンです」と言われた方や、余命宣告された方と数多く関わってきました。
いまだに多くの人がガン=死というイメージをお持ちです。
そして多くの人がガンになると死への恐怖を感じ、パニックになったり現実逃避したり様々な心的反応をします。
※ちなみにここ何年かの日本人の死因第1位は悪性新生物(がん)です
私が新人の頃は、患者さんに「死にたくない。どうすればいいかわからない。」と言われたり、あるいは余命幾ばくもない人の前で何をすべきなのか、自分の中での正解を見つけることができませんでした。
しかし、どうすればこの疑問に適切に答えることができるのか、少しでも死への恐怖を軽減することができるのか、自分に一体何ができるのか、対応方法を試行錯誤してきました。
そこで本日は、(もちろん正解はないですが)わたしが考える、死を目前にした人へできることについて述べていきたいと思います。
※今回書かせていただく内容は、自分自身の経験と合わせて、エンドオブライフケア協会の理事長を勤めている小澤竹俊先生が書かれた、「死を前にした人にあなたは何ができますか?」という本を参考に書かせていただきました。
この本は、数年前にとあるDrからプレゼントでいただいて、ものすごく参考にしている本です!
誰でも、緩和ケアの基本を抑えられる素晴らしい本だと思っています💓
よろしければお付き合いください🙏🏻
家で看取る時代がきている
突然ですが、あなたは今までに誰かを看取ったことがありますか?
私は、医療者という特殊な立場・また緩和ケアを担う立場として、ここ5〜6年は1ヶ月に5人ぐらいは看取っています。
1年で60人は看取っているということです。
多くてびっくりしましたか?
実はこれでも少ない方で、多い病院だと1ヶ月に10人以上看取っている医師や看護師がたくさんいます。
そして、超高齢少子化多死時代を目前にして、国は自宅や介護施設での見取り対応を促進しており、あなたがまさに誰かを看取る可能性はどんどん高まり続けています。
ではもしも、あなたの大切なひとが何らかの理由で死を目前とした時、あなたには何ができると思いますか?
厳しいことを言うと、励ましや明るい言葉でその場を取り繕っても、苦しむ人の助けにはならないことが多いです。
そして、医学がどんなに進歩しようとも、全ての病を直すことは不可能です。
ただ一つだけ言えることは、医療者でなくとも、なんなら家族や知り合いだからこそ、死を目の前にした人にできることがあると言うことです。
あなたがもし「死を目の前にした人に何ができると思いますか?」と言う質問の答えが思い浮かばない場合、これから話すことを少しでも参考にしてもらえると嬉しいです。
重いテーマですが、それでは早速参りましょう〜♪
まずは事例を用いて実際に考えてみよう!
今回は事例(フィクション)を用いて実際に考えながら、ご説明させていただこうと思います!
正解はないので、あまり難しく考えすぎないようにしてくださいねっ♪
独居で自宅での療養生活を続けたいAさん(87歳女性)
【病名】肺がん末期、高血圧症
【家族構成】夫は既に他界しています。
子供(男)は1人、遠方でありサポートが難しいですが、Aさんのことが心配で1ヶ月に1回は様子を見に帰ってきています。
【経過】Aさんは70歳ごろに肺がんを発症し、手術や抗がん剤治療を行ってきました。
徐々に買い物ができなくなり、家事援助などの介護サービスを受けるようになりました。
80歳を超えた頃から病院への通院が困難となり、訪問診療、訪問看護などの医療サービスを受けるようになりました。
独居でありながら、Aさんは住み慣れた家への愛着があり、亡くなったご主人と過ごした家がAさんの人生そのものでした。
一方でこのままずっと家で過ごせるのかと言う不安もありました。
Aさんが85歳を超えた頃には、1人でトイレへ行けなくなり、食事摂取も難しくなってきました。
しかし点滴などもしたくないと話され、枯れていくように逝くことを望んでいました。
Aさんの希望を叶えるべく、多職種チームで様々な支援を行っています。
上記のような患者さんは、現状でもかなり多く、これから増え続けていくと思われます。
死を目前にした状態のことを、多くの本では「人生の最終段階」と表現したりします。
そして、この人生の最終段階に差し掛かり、衰弱していくAさんを見て、医療者だけではなく家族も「何もしてあげられない」と落ち込んでいくことも少なくありません。
もし、Aさんがあなたの家族だったとしたら、あるいはあなたが担当している患者さんだったとしたら、あなたは何をしたいと考えますか?
3分間シンキングタイム!!
例えば、大雑把にいうと以下のような意見が多いんではないかと思います。
家で過ごせるように、なんとかサポートしたい!
食事とかトイレが難しいなら、そこのサポートをしてあげたい!
1人で不安な分、行った時にたくさん話を聞いたらどうかな?
花子さん、太郎さん、二郎さんが言ってくれたことは、おそらくAさんにとって必要なサポートです。
しかし、今のままではうまく支援できません。
なぜなら3人が話している内容が抽象的(=ぼや〜んとしている)すぎるからです。
例えば、太郎さんの言った「食事のサポート」についてですが、Aさんが好きな食べ物はなんなのかや、思い出の食べ物があるのか、そもそもAさんが何かを食べたいと考えているのか、など情報が不足しています。
このままでは、適切なサポートは難しいでしょう。
では次の項目で、Aさんへどんな関わりをすれば良いのか具体的に考えてみましょう♪
様々な情報を整理し、ベストな対応を考えるには?
では1つずつポイントを整理してみます。
前置き
1つだけ前置きがあります。
それは、死を目前にした患者さんの、体温や血圧、尿量などはもちろん大切ですが、それよりも大切なのは患者さんの表情だということです。
なぜなら、その人が穏やかな表情であれば心身ともに穏やかであり、逆に血圧や体温に異常がなくても表情が暗かったり険しければ心身どちらかに何か苦痛があると考えます。
つまり関わっていく中で、その人の表情や雰囲気が良くなっているかに注意する必要があります。
また、私が冒頭でおすすめした本「死を前にした人にあなたは何ができますか?」では、医療者以外も含めたあらゆる人が「死を目前にした人へできること」を考えられる方法が紹介されています。
その方法が事例検討シート(=その人の情報を分析するための分類表)の活用です。
この事例検討シートの前に、重要なポイントがあります!
というのも、その人にとっての事例検討シートを作成するためには、まずはその患者さんについて詳しく知る必要があります。
情報不足では、そもそもアセスメントすることができないですし、その人にあったケアを行うことができません。
この事例検討シートを作成するために必要と言われているのが、援助的コミュニケーションというコミュニケーション術です。
援助的コミュニケーション
人生の最終段階に差し掛かった人と信頼関係を構築し、必要なサポートを考えるための情報を手に入れるために、必要なスキルが「援助的コミュニケーション」です。
援助的コミュニケーションのポイントは、「苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人がいると嬉しい」とうことだと、本の中では述べられています。
つまり、死を目前とした人が「わかってもらえた」と思えることが1つの課題であるといえます。
ご高齢の方や衰弱している方は、会話自体も難しくなることが多いです。
そういう場合でも、本人が伝えたいと思われるメッセージをキャッチできる可能性は十分にあります。
それは、その人がどんな人生を歩んできたのか、どんなことを誇りに思い、どんなことを心の支えにしてきたのか、を話せなくなるまでの会話からキャッチするのです。
本人から聞き取ることが難しい(本人が寡黙である、既に話せない状態である等)場合は、家族や友人からその人についての情報を集めます。
それを言葉にして本人へ返すことができれば、援助的コミュニケーションは成立します。
例えば、Aさんであればご主人との馴れ初めを聞いたり、87年間の人生をどんなふうに歩んできたのかを聞いてみます。
そこから、Aさんがどんなことが好きで、どんな支援を求めているのかを一緒に考えていくわけです!
そうやっていろんな話をしていくと、少なくともその人へ「この人は自分のことを理解しようとしてくれている」と伝わるはずです。
自分を理解しようとしてくれる人に、人は心を開いて思いを語ってくれるようになります。
まずは、心を通わせて信頼関係を構築することが重要です。
家族や身内であれば、既にこの信頼関係が構築されている場合が多いので、医療者よりも的確に援助的コミュニケーションを行えることが多いです!
そして、先程のAさんに援助的コミュニケーションを用いて関わったところ、以下のような情報が追加されたとしましょう。
- 食事はできる限り口から取りたい、チューブや点滴は嫌
- 住み慣れた家でとにかく最期まで過ごしたい
- 食事を取れなくてもいいので、自然に死んでいきたい
- 歯磨きなど身だしなみはきっちりしていたい
- 夫との思い出話が好きで、新婚旅行の話をしっかり覚えている
- 所有する不動産を、お金に変えて社会に寄付したいと考えている
- ヘルパーさん、訪問看護師、訪問医師などのことを心の拠り所にしている
- 亡くなったらご主人と同じお墓に入りたい
では続いて、実際に使用している事例検討シートを使い情報を整理してみましょう♪
事例検討シートで情報を整理する
私が実際に使用している事例検討シートはこんな感じです!
これにAさんの事例を当てはめてみると、こうなります!
情報を整理できたら、次はこの中で私たちに何ができるのかを考えてみましょう!
苦しみをキャッチする
先程の事例検討シートをもとに考えていきます!
ポイントは、解決できる苦しみと解決できない苦しみに分けて考えることです。
がんである、ないにかかわらず、身体的な苦痛の緩和は解決できる苦しみです。
慢性的な疼痛や呼吸困難感などが出現すれば、オピオイド(いわゆる麻薬)の導入を検討したり、温罨法や冷罨法、環境整備を行うなど、様々な苦痛緩和方法があります。
また痛みは脳で感じるため、不安で痛みは増強することが知られています!
つまり、安心できるリラックスできる環境というのは、それだけで疼痛コントロールへつながっています!
加齢や病状進行に伴うADLの低下は、解決できない苦しみの一つです。
Aさんの場合は食事摂取量の減少や、身の回りのことが自分でできないという苦痛は、解決できない苦しみとして分類されます。
本には、苦しみというのは「希望と現実との開き」であると書かれています。
つまりAさんの「食事摂取ができない」「身の回りのことができない」という苦しみは、裏を返せばそれだけ「食事を摂取したい」「身の回りのことを自分でしたい」という希望が大きいということです。
つまり、Aさんは現実をまだ十分受け入れることができていないため、苦しんでいるということになります。
このように、人間は様々なプロセスを経てショックな出来事や辛い出来事を受容します。
日本では、主にこちらの「フィンクの危機理論」というのが有名です!
人はショックな出来事に遭遇すると、この第1段階(衝撃)〜第3段階(承認)を行ったり来たりしながら、第4段階(適応)へ至ると言われています。
Aさんは第3段階の承認まで来ているようですので、援助としては今Aさんができること一緒に確認しあったり、家で過ごせるようにサポートすることを伝えて安全を保証しつつ励ますといった介入が適切であるといえます!
支えをキャッチして強める
苦しみに関してはある程度把握できたところで、次はAさんにとっての心の支えについてみていきましょう!
今度は先程の事例検討シートの下の部分をみてみます!
上記はAさんの、支えになるものです。
また例えば家で過ごせるように、お子さんが月1から週1へ頻度を上げて様子を見に来てくれたり、ヘルパーさんが家事全般をしてくれたりすることで、Aさんだけではなくお子さんやヘルパーさんも「何か役に立てている」と感じて、関わり続けることへの自信が生まれます。
つまり、援助的コミュニケーションと事例検討シートを活用して、その人に合わせた支援ができれば、援助される側も援助する側も両方ハッピーになれるというわけです!
またAさんの将来の夢は「ご主人と同じお墓に入りたい」という、実現可能な夢です。
しかし、これが例えば「死んだご主人と会いたい」など実現が困難な場合はどうでしょう?
そのような場合はあきらめるのではなく、実現可能なレベルへ変更できないかAさんと一緒に考える必要があります。
もしも「死んだご主人と会いたい」という場合は、例えばご主人との思い出の場所へ小旅行へ出かけたり、あるいはご主人のお墓参りに一緒に行ったりなど、少しでも夢の実現へ近づける提案をします!
全てにおいて、その人と信頼関係が構築されており、その人を「理解したい」という思いが伝わっていれば、きっと何かしらの援助方法を見出すことができるはずです。
そして、私が思う援助とは「相手の苦しみを最小限にし、相手の安らぎ・支え・長所を強めること」だと考えます。
ですので今まで述べてきたように、苦しみと支えを両方把握した上で、援助方法を考えていくことが重要であると考えます。
なかなか難しい内容になってしまいましたが、少しでも伝わっていると嬉しいです!
まとめ
本日も長くなりましたので軽くまとめます!
- 死を目の前にした人に対し、どんな人にも必ずできることはある
- 死を目の前にした人を見て、医療者だけではなく家族も「何もしてあげられない」と落ち込むことがある
- 苦痛の評価をする際には、バイタルサインも重要だが、その人の表情を確認することが大切である
- その人に合わせた援助を考える上で重要なのは、援助的コミュニケーションを用いた信頼関係の構築・情報収集と、事例検討シートの活用である
- 援助的コミュニケーションと事例検討シートを活用して、その人に合わせた支援ができれば、援助される側も援助する側も両方ハッピーになれる
- 援助的コミュニケーションとは、相手が「わかってもらえた」「この人は自分を理解しようとしてくれている」と思えるような関わりをさす
- 死を目の前にした人へできることを見つけるためには、事例検討シートでその人にとっての苦しみと支えを把握し、「相手の苦しみを最小限にし、相手の支えを強めるような援助」ができるよう努める必要がある
なんだか書きすぎた気がします😂
少しでも参考にしていただけると嬉しいです!
それでは、本日も最後までご覧いただきありがとうございました〜🌸
またお会いしましょう👋
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